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Posted: 27 Jun, 2016 @ 4:39am
Updated: 27 Jun, 2016 @ 6:22am

S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl
日本語版翻訳権独占
へるみ書房
©2016 Helmi Publishing,Inc.

PDAに着信した"どこにも所属していない流れ者がいる"という情報に、降り注ぐ雨の中、俺はじっと森の中で伏せていた。
双眼鏡で監視すると、確かに50がらみの男が土砂で塞がったトンネルの中で、焚き火をしつつウォトカをひたすら飲んでいる。恐らくどこかで被爆したのだろう。
(訳注:ウクライナでは体内の放射性物質をウォトカで洗い流せると信じられていた)
腰に下げた拳銃は間違いなくサプレッサーつきだった。他に武器を持っていないか入念に監視する。奴の拳銃を狙い続けて俺はもうここで2日間じっと監視を続けていた。奴を殺して奪いとっても騒ぎを起こされて他の組織にばれるのはまずい。誰にも見つからずにあの拳銃を奪いたい。
夜になり、辺りは真っ暗になった。
──仲間なし。拳銃以外の武器なし。
そう結論付けて行動に移すことにした。この辺の森には野犬がうようよいる。俺はあらかじめ特に野犬が群れているポイントを調べ、PDAでスポットしておいた。ポイントに移動すると相変わらず感染症だらけの汚い野犬が群れている。こいつらはどうも以前より増えたような気もする。
俺は背嚢から紙にくるんだ缶詰の肉を取り出す。現場で缶を切らなかったのは野犬の嗅覚を恐れていたからだ。手間取れば襲われるのは俺になる。紙で巻いてボール状になった肉を野犬の群れにぶん投げる。ベチャッ!と肉が地面で潰れ、臭いを嗅ぎつけた野犬がすぐ集まってきた。自分に肉の臭いが残らないように俺は場所を移動しながらボール肉を撒き餌にして、だんだんと例のトンネルへと野犬どもを誘導する。奴のトンネルがすぐそばになった時、俺はトンネルに向けてボール肉を投げつけ、小枝を踏まないように音を消し、闇に潜った。
数分も経たないうちに奴は野犬の群れに取り囲まれているのが双眼鏡で確認できた。奴は拳銃で応戦していたが、サプレッサーが仇となりこちらに発砲音は全く聴こえない。野犬の吠え声も雨音に紛れてこの距離では全くしなかった。

雑に食い荒された奴の身体を探ると少量のウォトカの他には食料を持っていなかった。だが俺はうち棄てられた消音拳銃をまんまと自分のものにしたのだった。

俺が以前何をしていたのかは全く記憶がない。俺を拾ったというトレーダーのじいさんの仲介でこのキャンプの行き来はできるようになったが、相変わらずここでの俺は余所者には変わりない。キャンプではじっと双眼鏡で周辺の様子を探っていた。キャンプのバンデッドに「何を探しているんだ」と尋ねられもしたが、「地形を見定めているんだ。土地勘がないもんでね」と適当に返事をした。地形を見ていたのは事実だが、俺はもう一つ探っているものがあった。このキャンプから持ち去れるものはないかと。これは何がそうさせているのかは説明はできないが、俺の持っている本能的な習性なのだろう。
俺にははずっとチェックしているものがあった。ボロボロの家屋の屋根裏に見慣れたラベルの貼ってある木箱があるのだ。このキャンプの住人の装備は極めて貧弱で、そこから考えてもこの木箱はどう見てもデッドストック品だと判断している。白昼堂々持ち去るわけにはいかないので俺はこれを奪う機会をずっと伺っていたのだった。

真夜中のキャンプにはフラッシュライトを点けた歩哨などの人影はあったが、雨はどしゃ降りになり、盗みをするには絶好の状態だ。
俺は木箱から近い家に梯子を伝って登った。屋根が急勾配なので雨と一緒に地面に落ちそうになるが、なんとか踏みとどまる。辺りを見回して人に見られていないのを確かめると、全力疾走して木箱のある家の屋根に飛び移る。跳躍がやや足りず俺はあわや転落しそうになったが、ナイフを屋根に突き立てて腕力で一気に身体を持ち上げた。荒くなった呼吸を整えながら、裂けている屋根のところまで回り込む。
あった。この木箱だ。ラベルには [PSZ-7]と印刷されている。手の届かない位置にあって今まで開けることは叶わなかったが、少し前に手に入れた消音拳銃で撃ち、中身を傷つけないように慎重に木箱を割った。間違いない。中身はあのジャケットだ。俺はナイフで届くギリギリの範囲にあるジャケットを手繰り寄せる。着ていたボロボロのジャケットを脱ぎ棄てると俺は新品のジャケットに袖を通す。サイズもぴったりだ。
──以前の俺は確かにこのジャケットを着ていたんだ。

俺はジャケットに鼻を当て匂いを吸うと、自分が何者であったかいずれ思い出せそうな気がしていた。


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