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0.0 Std. in den vergangenen zwei Wochen / 18.8 Std. insgesamt

Verfasst: 22. Juli 2017 um 18:04
Aktualisiert: 13. Aug. 2017 um 2:08

(Text der Rezension versteckt)

※本レビューはフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。

日暮里にある月島組は銀星会傘下の二次組織である。
事務所応接間のソファにデンと座った月島はセブンスターを取り出すと、月島組若頭の島田が全く無駄のない動作で火を点ける。
「島田、今週取り掛かれるシノギを挙げろ」
島田はプリントアウトした用紙をチラと見たがその表情は芳しくない。
「はぁ、今週は特にないですね」
「特にないってなんだよ！なめてんのか！」
月島が島田の腰を蹴りつけ、島田の顔が苦痛に歪む。
「見せてみろ」
島田の持っている紙をひったくると、確かにそれらしいシノギになりそうな情報はない。が、気になる案件がひとつ目に止まった。
「ドバイのモーターレース…優勝賞金800万ドル。支払いはアメリカドルだとさ」
「いえ、さすがに海外レース参入はウチの組でもムリかと、ましてドバイ首長国ですよ？」
元は福岡の組から西側の川田遊興会へ回ってきた案件だったが、さすがに海外モータースポーツとヤクザに接点はないので、あまりにも出し抜けな内容を持て余し、タダ同然で東側の日暮里にまで回りに回ってきた情報だった。
「どんなもんでもシノギにすんだよ！ったく頭の鈍い野郎だ」
月島はまたも島田の腿を蹴り上げる。
「ひとりできそうな奴を知ってるぞ」
月島はスマートフォンを取り出し、どこぞに電話をかける。
「おう、樺山か。今どこに居るんだ？江戸川？ボートか。飽きないなお前も。カネになる話があるんだ。今夜ウチの店に来いよ」
一方的に通話を切るとスマートフォンをテーブルにガツッと投げ出し、月島はセブンスターの濃い紫煙を吐き出した。

裏社会に対する常識的な言葉がひとつある。
「ヤクザとは関わってはいけない。1度関わったら死ぬまでヤクザは付きまとって縁が切れない」

樺山は川田オートレース場の元オートレーサーで、今は引退している。正規に引退レースまで行っての幕引きだったが実情は違う。樺山は余暇のドライブで月島組関係者の車と事故を起こしたことがあった。前日のレースの出来が良く、調子に乗って飲酒運転をしていたのが運の尽きである。この事故は月島組が樺山を知っており、オートレーサーとしての処分を恐れた樺山に対して"好意"で示談にしてもらったのだが、以降、月島組との関係ができてしまった。この事故で樺山は一生後悔することになる。
ある時、月島組組長、月島洋次の実子である月島周（あまね）が、樺山に八百長を持ちかけた。オートレース関係者やファンの目は肥えている。樺山ひとりが八百長走行をしたところで、すぐにバレてしまうのは明白なため断りたかったが、飲酒運転の弱みを握られているので断りきれなかった。月島も樺山だけで八百長が成功するとは思っておらず、どこをどうしたのか、レース場の関係者や組の兵隊を多数動因して、他のレーサーのバイクが微妙な不調になるよう細工してしまい、八百長レースは成立してしまった。
1ヶ月ほどして川田オートレース場のフロント会議に出頭させられた。川田では水面下で内偵を行っており、八百長レースの首謀者のひとりが樺山であることを割り出したのだ。樺山は自分の不手際とヤクザ絡みの末に行ったことまでは吐いたが、月島組の名前は出さなかった。言えば自分の命は無いだろうと思ったのだ。結果的に川田では件のレースを闇に葬ることにした。既に着順の確定したレースであまりにも多数の人間が関与していることが解り、スキャンダルになれば経産省の大規模な手入れは免れられない。最悪の場合、川田オートレース場は閉鎖されてしまうことすら考えられるからだ。川田は樺山に引退することを条件にコトを収める事にした。体調不良を理由に引退宣言させ、引退レースも行う。ただし樺山は今度一切オートレース関係者に会う事、場内への出入り禁止を命じられた。事実上の業界永久追放処分である。

日暮里のバーは月島組がフロントで営業している店だった。
中に入ると薄暗い店内の奥にサングラスをかけた月島がこちらを手招きしており、隣に若頭の島田が控えている。ソファに腰掛けると島田が水割りを作り、樺山に突き出した。どんな話なのかを考えると、口をつける気にはならない。
「まあ飲めよ」
と月島に強要されるようにどうにか口だけはつけた。月島はいきなり話し始める。
「相変わらず無職か？」
「ええ、まあ」
「お前、2輪も4輪も速いよな？」
「トルクに乗ればどっちも同じです」
月島は少し解らないような表情をしたが言葉を続けた。
「4輪のレースがある。優勝したらお前に5000万やる」
「レース…ですか」
「英語ぐらいできたよな？」
「できますが…」
「ヒンディー語は？」
「えっ（……何人と俺を組ませる気なんだこいつは…）」
「今から少しは勉強しとけ」
「一体どこでレースがあるんですか」
「ドバイ」
「……」
「ドバイのリゾート地にあるサーキットだ。すっごいリゾート地だぞ。主催者は親日家でさ、"日本最強のレーサーを呼んでくれ"って言うんだ」
「……」
「そんなだからきっと現地の待遇もいいぞ。いいなー」
「……（"いいなー"じゃねえよ…）」
「優勝賞金はアメリカドルで800万だ。でかいレースだぞ。樺山、お前にもう一花咲かせるチャンスをやるよ」
「ちょっと待ってください、賞金が800万ドルでなんで俺の取り分が5000万円なんですか」
「島田」
「はい」
「ちゃんと説明してやれって言ったろうがー！こいつ察し悪ぃし！」
月島が島田を殴り飛ばすと、島田は別なテーブルまで吹っ飛ばされ、ボトルやグラスが派手に割れる音が響き渡った。月島は非常に凶暴でキレやすい。女なのに異様に喧嘩が強く、ハジキでも石ころでもボールペンでもなんでもあるものを使って喧嘩は無敗と聞く。だがカタギは殴らない。月島自身、組長の実子でありながらカタギを自称している。実子である以上、マル暴にカタギ扱いされるわけはないのだが、指摘したら最期、バラされて東京湾の魚のエサになっていることだろう。そのくせ、ギャンブルになると人が変わったと思うほどに冷静で、賭け事もまた異様に強いという。
鼻血をぬぐいながら島田が「すいません」と立ち上がって樺山に説明を始めた。
「えー、つまりですね、賞金の振り分けですが、ウチの仲介料、ドバイ現地でのチームを雇う資金、あなたのドバイでの生活費、雑費等々、ドバイのレースに参加するにはタネ銭が要るわけです。タネ銭は高額すぎてウチでは手配しきれませんので、金主（闇金融などに裏金を提供している財界人）から借り入れるわけですが、高額の利子をつけての返済となります。これら諸経費を計算するとあなたの取り分は5000万円となるわけです」
月島が島田の説明を継ぐ。
「俺が金主に頭を下げてカネを借りるんだけどさ、高額だしそれ相当の担保も必要だと思うわけ」
厭な予感がする。
「で、お前の再婚した奥さんと娘さん、若いじゃない？ふたりを担保に入れて借りちゃおうよ」
樺山は背筋が凍るような思いがした。ヤクザの話のクセとして核心的にヤバイ話はどこか気軽な語尾になる。「殺っちゃえばいいじゃない」とか「埋めちゃおうよ」とか「今からそっち行くよ」なんて電話があった日には事務所を襲撃したりする。一般人がイメージしているような恫喝めいたセリフはそこにはない。そんなのは映画やテレビドラマだけの話だ。
絹恵の顔を思い浮かべる。まだ23歳。自分と再婚してくれたのが不思議なくらいできた若女房で、オートレースを引退した時も、厭な顔ひとつせず、「新しい生活のスタートね」などと自分を励ましたぐらいだ。自分の連れ子である娘は「お父さんは今大変だろうし」と、生活費を入れるために高校を中退して働きに出てくれている。そんなふたりを売れというのか。当然オートレース界から永久追放された件は話していない。
「手付けで500万やるからさ。ドバイ入りまでこいつで家族と旨いものでも食ってこいよ」
テーブルに分厚い封筒を差し出される。ゲンナマで手付けを渡された。樺山に断る選択肢は無いということだった。

──ドバイはオートドローム。
太陽光眩しい巨大リゾート地に作られた、ドバイグランプリも開催されるこの有名サーキットに自分が足を踏み入れ、まさかドライバーとして参加するなどとは夢にも思わなかった。現地入りして軽く探したが、当然のように月島たちは居ない。
コミッショナーに会いに行くとクーフィーヤを被った髭のアラブ人に歓迎された。どうやら日本からの参戦を喜んでいるらしい。しかし妙な事もあった。遊園地に居るようなヴィヴィッド色の動物を模した着ぐるみを手渡されたのだ。着ぐるみはなんの因果か、ドングリみたいに目の飛び出た冗談じみている意匠をした"紫色のカバ"だった。
今すぐこれを着ろと言う。そしてプライベートが確保できる手配済みのホテル以外で着脱してはならない、自分の素顔を晒したり誰であるかも絶対に他人に悟られたり、話したりしてはいけないと命じられる。仮に身元がバレたらどうなるのだろうか？普通ではないアラブ人の雰囲気を感じ取ると、樺山にそこまで訊く勇気は出なかった。
サーキットに行くとチームクルーと面通しした。クルーは全員インド人だった。英語はあまり通じるとは言えず、月島の"ヒンディー語を勉強しておけ"の意味がようやく解った。英語で「レースは何日開催なんだ？」と訊くと「5日"ぐらい"」との返事が返ってくる。"ぐらい"とは何なのだろうか。樺山はインド人特有の日時に対するアバウトさにイライラしてきていた。マシンを見に行くと"ただの"レーシングカートがそこにあった。このカバの着ぐるみでカートに乗れというのか？状況の不穏さに着ぐるみの中が汗でびっしょりになる。
そういえば出国前、月島が「困ったらこれを開けろ」と手渡してきたものがある。神田明神のお守りだった。当時はお守りで優勝祈願とはヤクザらしいなとしか思わなかったが、藁にもすがる思いでお守りの袋を開ける。

そこには切れっぱしになった新聞折込みの黄色いチラシの裏に、月島によると思われる鉛筆手書きのメモが入っていた。
＜レースは現地時間で8日の正午スタート。全4戦、各3ラウンドだ＞
＜マシンは120cc。最高のセッティングのものを用意したが、所詮カートだ。他のドライバーのマシンと大差は出ないだろう＞
＜インド人の言う事を真に受けるな。半分冗談ぐらいに思っておけ＞
＜参加ドライバーはお前の他に5人。全員表のレースで走れなくなったプロだ＞
＜その中でひとり、フォーミュラ1で走ってた奴がいる。走りのクセでそいつが誰なのか見抜け＞
＜これは賭けレースだ。コッミッショナーも観客も賭けてる。全員賭け事のプロでパドックの時点でレーサーが誰かを検討つけてオッズがつく＞
＜だがお前は裏レースでも無名だ。高額オッズが確実につく。カネがあれば自分に全額賭けとけ＞
＜賞金は優勝者にしか出ないから、2着、3着で甘えようとすると賞金は1ドルも持ち帰れない。保険で自分に賭けておくのを重ねて勧める＞
＜日本で言い忘れていたんだが＞
＜1戦ごとのドライバーズポイント最下位のドライバーは、着ぐるみを剥ぎ取られて処刑ショーが開催される。これも興行の一環だ＞
＜処刑に使われるシミターという刀はよく砥がれて切れ味抜群らしい。苦しまずに首を刎ねてくれると思うので、そこは安心して欲しい＞
＜お前が優勝して東京に凱旋してくるのを祈っている＞

樺山はグシャとチラシを握り潰した。その横を「あと3ラップ"ぐらい"」と書かれたプラカードを手にしたインド人が通り過ぎる。
クソッタレ！最低でも総合3位に入賞しないと生きて日本に帰れないじゃないか！あの女（やろう）！処刑の話はわざとしなかったな！

──ヤクザとは関わってはいけない。1度関わったら死ぬまでヤクザは付きまとって縁が切れない。
樺山の文字通り命を賭けた、野生動物のレースはこれから始まろうとしていた。

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月島周　編#2
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5 Kommentare

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Helmi 23. Juli 2017 um 1:22

このレビューシリーズは冒頭にもある通り、全くのフィクションなんですが、
実は福岡、西側（大阪、兵庫、広島）、東側（東京）で日本統一を虎視眈々と
狙っている、日本三国志というベースの設定があります。
この設定はシリーズを追うごとに徐々に明るみに出てきますのでお楽しみに

Helmi 23. Juli 2017 um 1:18

＞手榴弾を届け出ると当局から10万円の報奨金がでます。
お読み頂きありがとうございます

この話は東側でも知ってる人は知ってる話題でけっこう有名な話ですね。
僕ももちろん知っています。東側では福岡のこの手の話題はニュースとして
流れないので、多くの東側住人は福岡がどんな地域性を持っているのかを
知りません。

Helmi 23. Juli 2017 um 1:16

＞Helmiさんもそういう性質の人の一人なんですかね
お読み頂きありがとうございます

スティーヴンソンは自分の子供に読ませるために「宝島」を書いたと
いわれていますが、僕の場合、自分が読みたいものを自分で書いている
感じです。

Z.O.E 23. Juli 2017 um 0:49

サバイバルゲームに興じていた時に、「俺らもかたら（参加）せてくれ」と、オッチャンと若いの数人と知り合いました。その人たちサバイバルゲームの装備がアレで、テキ屋のオモチャの銃。東京マルイ等の名前も知らない。何だろうこの人たちと訝っていると、話からどうも組員と準構成員らしく震え上がったことがあります。気さくな人柄で、電話番号を交換したんですが、まあ僕たちが金ヅルになるわけでもなく、数回サバイバルゲームをして関係は解消。余談で、修羅の国在住の人は、手榴弾を届け出ると当局から10万円の報奨金がでます。金欠の時「手榴弾捜さないかんばい」と冗談を言います。

urakata 22. Juli 2017 um 21:28

角川ホラーとか徳間デュアルでSFホラー私小説(阪神大震災後に妻に拾われて何となく結婚した体験がモチーフの作品多数)を出してた北野勇作氏が「人面町四丁目」の主人公を介して言ってたことを思い出す。
曰く、
「放っておくと頭の中に何か澱のようなものが溜まってきて重たくなってしまう。定期的に頭の中にある澱を文章として排出する事で、不調なく生活が送れている様に思う。飯のタネだからというだけでなく、私が生きるために必要な作業なのだ。」
という様な主旨であった。
Helmiさんもそういう性質の人の一人なんですかね

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