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Odeslána: 17. led. 2023 v 15.23
Naposledy upravena: 12. lis. v 4.53

楽しむためのゲーム
 チープともとれる見た目ゆえか苦行と喧伝されているからか巷では罰ゲーム扱いされているらしい。「うわ、出た出た」と定型的なリアクションを示す人ばかり。等身大の素直な感想が出てくることはまずない。自分で買ったか贈りつけられたか、手に取った人たちも苦行と称した見せものを数時間やってやめていく。まるでわざわざ汚いものを手にして「うわあ!ばっちい!」と見せびらかすかのよう。動画サイトを漁ればそこかしこにPart1だけの実況が転がっている。はじめからやめるつもりで自己演出した苦行のような茶番か、ナメてかかって立ち行かなくなった跡地がたくさん。悪意を投げつけあう一過性の遊びとして消費するのも楽しいけれど、それではあまりにもったいない。
 
 このタイトルを好む層がほかに好んでいたものを挙げる。
  • GUILTY GEAR -STRIVE-
  • Fall Guys
  • beatmaniaIIDX
  • Rocket League
  • League of Legends
  • 絵を描くこと
  • 作曲
Pogostuckと同じ登山系タイトルは除いてある。GGSTとの異常な相関はさておきいずれも昨日の自分よりうまくなる体験が核にある。クリエイターやプロゲーマーがこぞって遊んでいるのにはそれだけの理由がある。このゲームもまた上達の喜びに焦点をあてている。毎日少しずつ取り組み終わりのない修練を続けていく。どれも部活動のような営みで、これも数ある部活ゲームのひとつといえる。訳もなく数千時間を費やし自身のプロフィール欄につい書いてしまうような、誰かのアイデンティティたりうるタイトルといっていい。
  
 数ある部活の中でもPogostuckはその単純さに特徴がある。いい意味で自由度がない。キャラクターはひとつで操作は1ボタンと左右だけ。カスタマイズできるのは見た目のみ。数十数百ある数値を覚える必要はない。個人競技なこともありナーフもバフもこのタイトルにはない。だから学習したものが無駄になることもない。
 
 一生遊べるからといってやみくもに難しいわけではない。実績やマップのつくりが実に巧妙。数日やっきになればなんとかできそうな課題が与えられ続ける。おかげで目先の目標が常に明確になっている。上達のために優れたコーチを必要としない。マップにはプレイヤーの心を折らない工夫が随所に施されている。ある場所では天井が僅かにへこんでいて頭をぶつけにくくなっている。床や壁、背景に目印がさりげなく置かれていたりもする。これらは数百数千ある工夫のひとつに過ぎない。ひとつ小さなミスをしたからとスタート地点に戻されるようなこともほぼない。どの落下にもそのときどきに応じた復帰がきちんと用意されている。もしもオブジェクトが雑に配置されていたらみな数時間ももたない。思慮のない難しさは理不尽な体験しか生まない。Pogostuckはそうではない。
 
 よくできたソウルライクというかゲーム全般がそうであるように悪意でなく斬新な発想と巧みな調整と優しさからできている。他にない水準の手厳しさがあることは否定しないけれど、それはプレイヤーを信頼していることの裏返しととる。うまくいかず悪意しか受け取れなくなってきたときは、Sekiroと同じなのだと思ってほしい。無条件にリスペクトしてみる。……頑張れなかった人はダクソとか、モンハンとか、エーペックスとか、自分の人生で頑張れてしまったあれやこれやに置き換えてみる。「ポゴなんかと一緒にするな」と思うかもしれないが、そこをぐっとこらえてみる。「よく知らないがみんなが褒め称えている傑作らしい。難しくて全然できないけど騙されたと思ってもう少し頑張ってみよう」という気分で遊んでみる。少なくない数の人間が何千時間も遊んでいる。異常なのはプレイヤーではなく彼らにそうさせる作品のほう。Pogostuckはチープなインディーズゲームなどではない。得体の知れない「なにか」を隠し持った怪物と表現したほうが正しい。それがわかれば少しは真剣に向き合える。
 
 単純さと難しさと優しさが絶妙なバランスで調和した結果、やるだけで上達し続けていく不思議な体験がもたらされる。ポゴでなくともやればうまくなるのはそう。なのだけど、その中でも際立って学習が容易。たとえば音ゲーで同じ曲ばかりやるとか、格ゲーで同じ技同じ戦法ばかり使うとか、何を上達するにしても報われないやりこみへ身を投じる危険は必ずある。たいていは誤った方向への努力が成長を妨げてしまう。そうした学習の失敗がPogostuckでは起こりにくい。技術的な難しさと学習の難しさは異なる。Pogostuckは前者の意味で難しく後者の意味で易しい。だから難しいゲームが苦手な人にこそ遊んでほしい。
 
 あまりにも勝手にうまくなるので、もはやなにか人工的に作られた上達実感装置のようにすら感じられる。何の目的意識もなく動かしているだけで意図しないところまでどんどんうまくなる。部活ゲームをひとつの料理とするなら、Pogostuckはうまみ成分だけを取り出した味の素のような存在に思える。最小の要素で途切れのない成長体験だけを提供してくれる。
 
 その日のうちにクリアできることはまずない。しかし一日やって下手だからできないと結論づけるのは、一夜漬けで試験に落ちた理由を自身の頭の出来に求めるくらい意味がない。数時間でなんとかなるというおこがましい前提がおかしいのであって、才覚や資質の問題ではない。同様に、2時間やって進まないと自虐するのは自分が1000人に1人の早熟な天才でないことを嘆いてまわるのと変わらない。1000人に1人の例外を除きみなそうなので気にしなくていい。人に聞かれた日には「こいつはたった2時間でどうにかなるとでも思っているのか?」と笑われてしまうかもしれない。
 それから、一日でクリアすることにも大した意味はない。クリアしたという事実そのものは一日かかろうが一年かかろうが変わらない。どちらもただMap1を1周しただけで何の自慢にもならない。小学校のテストで満点をとったことがあるとのたまうのに等しい。本人は誇らしげだろうし、周りも賞賛の言葉をかけるかもしれないが誰もすごいとは思っていない。周囲と比べて自分の適性に一喜一憂するくらいなら同じ時間を練習にあてたほうがいい。
 
このゲームの根底には努力する人への敬意がある。
もしやるなら、苦行扱いせず楽しい部分を探すよう遊んでみてほしい。
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