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10.5 hrs on record (6.0 hrs at review time)
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Posted 20 August, 2016. Last edited 20 August, 2016.
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38.5 hrs on record
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Posted 24 July, 2016. Last edited 27 August, 2016.
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25.1 hrs on record (9.7 hrs at review time)
過疎の村役場勤めの俺にとっては初めての海外出向であった。
この山深く人里乏しい村で合議の末に決まったのは"東グレスティン市との姉妹都市提携を結ぶ"とのことであった。東グレスティンだって?アルストツカじゃないか。あんな時代錯誤の共産主義国となぜ今、姉妹都市提携など結ぶのだ?


一列どころか蛇行している大行列。
入国管理局の前で俺は足止めを喰らっていた。これだけの人数が居るというのに朝から入国の手続きは遅々として進まない。局は朝6時に開いたが、閉まる18時までにどうにも俺の順番は来そうにない。隣の入国待ちの男に今日中に入れなかったらどうするんだ?と尋ねたが首を横に振るだけだった。これじゃ仕事どころじゃない。

俺は列を抜け出し、アサルトライフルを抱えた入国管理局の警備兵に訴えた。
身分証明書とパスポートを見せながら「俺は日本から来た。姉妹都市提携の来賓客だ。このままでは約束に間に合わない。入れてくれ」そう言った瞬間に組み伏せられ、銃床で顔面をぶん殴られた上に気絶するまで堅いブーツで蹴り込まれた。俺は鼻血の海に飲み込まれていく感覚になっていった。


「列の割り込みは感心できんが、どうにも災難だったようだな。カタオカ」
俺は調度品の揃った室内で目を覚ました。手当てがされている。ベッドに横たわりながら横目で周りを見ると、マルクスとアルストツカの元首が並んで描かれた大きな肖像画が見えた。
「私は来賓として来たあなたの案内役をするレーヴェル・トクビコン中尉である。アルストツカに栄光あれ」
アルストツカ人口の8割は軍属なのは知っていたが、案内役を名乗ったのは軍服で身を包んだ少女だった。その子は肌も、髪も、瞳も…睫毛の一本に至るまで雪のように真っ白だった。…アルビノなのだろうか?それにしてもさすがアルストツカの軍人。日本語は流暢なものだった。
「軍医によると命に別状はないということだった。会食の間まで東グレスティンを予定通りに案内する。服は3分以内に着替えて出発。用意始め」

外に出ると兵士の行進が見えた。
「あれが我が軍の制式小銃のAKM-3909。実包は7.62x39mm弾。ソ連からのライセンスで我が国が自給している。レシーバーは削り出し加工。木部は無垢材だ。どうだ?美しい仕上げだろう」
この小口径弾主流の時代に未だにAK-47改良型とは恐れ入った。他国に軽く30年は遅れている。が、俺は出掛かった感想を吞み込んだ。
「ここが製造工場だ。主に先ほどのAKM-3909を製造している」
恐ろしく大きな大工場に信じられない程の人間が押し込まれている。一人当たりの行動できる半径は1メートルもないのではないだろうか。
「労働者の仕事は8時から17時まで。他国の意見を取り入れて0時から13時までは昼食と休憩時間を設けてある。残業などという愚かな労働形態はない。我が国は実に理想的な労働環境を実現している」
昼の60分以外は労働しっ放しとはなんて過酷な労働環境なんだ。工員の作業に目を凝らすとひとりひとりは実に単純な繰り返し作業に従事していて、あるものは1つの部品を取り付けるだけの作業をえんえんと行っていた。労働環境は産業革命時代レベルと言えた。
けたたましい非常ベルのような強烈なチャイムが鳴り響く。
「おっと昼食の時間だな。我々も食事の時間としよう」
メニューは1枚のトレイに甘露煮のニシン。麦芽ミルク。ふかしたジャガイモ。黒パン半切れ。これがメシか?と中尉を見上げると中尉はもう食事を終え、フィルターのない両切りタバコをふかしていた。
「完璧な管理体制のもと食事のメニューも大幅に改善され、今ではこのような豪華な昼食を提供できるようになった。どうした?食事が遅いではないか」
けたたましい非常ベルのような強烈なチャイムが再度鳴り響き、労働者は争うように食堂から消えた。それで食事の時間は終わりだった。
誰も居なくなった食堂のテーブルでトクビコン中尉は続ける。
「労働環境の他にも行政手続きにも大きな改善があってな、例えば住民登録関係の書類は以前15枚の提出であったが今はたった1/3の5枚で済むようになった」


来賓客室に戻るとトクビコン中尉のあまりにも白い肩口が見えた。
「会食までまだ時間がある。休憩したまえ」
ベッドへ行くように強く促された。ベッドに寝転がると白い下着姿の中尉が添い寝してくる。
「随分距離が近いようだが」
「しっ。アルストツカでは来賓をもてなすことは認められています」
トクビコン中尉の口調が違っている?
「どういう意味だ?」
「この部屋には監視カメラはありません。しかし私たちは盗聴されています。近寄って囁き合えば盗聴されません」
「なんの為の偽装なんだ」
「カタオカ。私を日本に亡命させて。アルストツカの現状は見ての通りです。アルストツカ人はアメリカにもソ連にもフランスにも亡命に失敗しています」
過去、アルストツカ人の亡命者は存在したがそのいずれも亡命先で暗殺されていた。
「しかし俺は日本の低級役人に過ぎないぜ?」
「解っています。わたしには計画があります」
「しかし中尉」
「レーヴェって呼んで…」


来賓客室付き軍曹が俺の部屋を力強くノックする。
「会食のお時間であります」
「今行くよ」
「中尉はいかがでしたか?」
「いかがでしただと?任務が終わったからって出て行ったよ」
「そうでありますか」
軍曹が消えると俺は腹の上で温まっている白猫をバスケットの中に入れた。


アルストツカから猫を持って帰るのに数々の検問を通り、俺は体の水分が抜け切るんじゃないかってぐらいの冷や汗をかいたが、どうにかやり過ごすことに成功した。
飛行場から村に帰ると役場で住民登録の書類を偽造する。役場勤めの俺には造作もないことだったが、それ以上にいわゆるムラ社会では国家権力よりも強い。レーヴェを俺の配偶者と皆に公言すれば、どんなに疑わしくとも住民はみんな見て見ぬふりを決め込む。
そこにトクビコン中尉の狙いが見えた。
白猫をバスケットから出して俺の部屋に入れると、白猫は俺が目を離した隙にレーヴェ元中尉になっていた。
「一応な、書類とかは偽造だけど作っておいた。精巧にやっておいたからひとまず安心していい。あとお前は俺の配偶者ってことにしてあるからな」
「カタオカ!感謝の言葉もありません!」
俺は抱きつかれたが猫から戻ったばかりのレーヴェは何も身に着けておらず、その肩は白い山脈を思わせた。

──ムラの住人の配偶者はムラの身内であり、国家権力よりもムラの繋がりは強く、この過疎村には誰も探しになんて来やしない。アルストツカに栄光あれ。
Posted 17 July, 2016. Last edited 18 July, 2016.
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59.9 hrs on record (59.7 hrs at review time)
Scourge:Outbreak
日本語版翻訳権独占
へるみ書房
©2016 Helmi Publishing,Inc.

じわりとした纏わりつく湿気の時期、相変わらず真っ黒な服装をした諏訪鏡子は、それとは対照的にパルテノン神殿のような白い建物を前にしていた。教団の建物は驚くほど広かった。かなりの信者数が居る。どんな言葉は解らないが、信者が経のようなものを上げているのが聴こえてきた。
「道場を通っていきましょう」
野狩が先導する。実際のところルートとして道場を通る必要があるのは訝しく感じるが、野狩は自分の勢力を鏡子に誇示する目的があるのかもしれない。木造の、武道でも使えそうな道場ではたくさんの信者が座って、それぞれの修業をしていた。
「この通り、わたしどもの教団では日々清廉とした姿勢で修行に取り組んでいるのです」
それが言いたかったのか、と鏡子はやはりといった気持ちだったが特に何も返事をしなかった。興味もないことだが、ふと目に止まるものがある。
道場の壇上で飾られている岩。信者はこれを崇めているようなのだ。しかしこの岩からは相当な力が出ているらしく、多数の信者が陶酔しつつ身体をくねらせている。
「御神体ですよ」
「普通の岩ではありませんね」
「さすが先生!実はあれは当教団が発足するきっかけとなった隕石なのですよ!あれを入手して以来、御神体として奉り、修行を極めた者ならば手を触れるだけで宇宙の真理を知ることができると言われます」
だが鏡子はそんな言葉は聞き流していた。この岩には全く霊力がない。だが、信者が陶酔するほどの力がある。これは人間の思い込みではない。
──まさかあの岩…生きてるんじゃ…。鏡子は顔色の変化を野狩に悟られないようにした。

「ここからが医療区画になります」
船舶の防水ドアのような分厚い金属の扉を開けると、そこからはさっきまでの木造とは打って変わって、壁が金属で構成された区画になっていた。
「こちらが件の患者の部屋です」
野狩がタッチパネルを操作するとシュッと扉が開く。エアロックの自動ドアなのだ。

部屋の中は異様、の一言だった。そこら中が苔のような緑色の菌類らしきもので覆われている。おそらく胞子で繁殖する類のものだろう。そして酷い悪臭。
部屋の真ん中には人間の姿からかけ離れた何かが横たわっていた。皮膚に相当する部分がチーズ、あるいは天ぷらのように膨らんでいる。触らなくてもぶよぶよですぐに崩れてしまうのは明白だった。

その時、鏡子は後ろから強い力で突き飛ばされた。
振り向くと入ってきた扉が閉じられ、ロックされている。
野狩は扉のガラス窓からこちらを見やるとこう言った。
「諏訪鏡子。お前はやりすぎた」

天ぷら化した死体の腹が蠢く。柔らかくなっている腹をゆっくりと割くと、まるで羽化をするように灰色をした蟹のような生物が現れ始めた。心は読めないが明らかにこちらを餌として狙っている。
「スコージ…」
鏡子は外国のサイトで見た"スコージ事件"を思い出した。1988年に隠蔽された有人宇宙ステーションの破棄。それは人間を喰らい宇宙ステーションを菌類でコロニー化した惨たらしい事件。宇宙ステーションは秘密裏に爆破処分され、大衆の知るところにはなかったが、一部のゴシップとしてだけ話は残った。やはりスコージは存在したのだった。
霊相手には相対できる鏡子であったが虚弱な体質なので完全な生命体には一方的に弱い。スコージはもう全体の半分も見えかかっている。
スマートフォンを出し山野井に電話しようとしたが、つながらない。この部屋全体が妨害電波に包まれている!
──鏡子は死を覚悟した。

山野井は事務所でノートパソコンへ雑にテープ止めした"勅符"に文字が浮かび上がるのに気づいた。"勅符"は二枚一組で儀式を行った札で片方の札に血で文字を書くと、もう片方にも同じ文字が浮かび上がる緊急救命通信の術である。
「なんだ、これは…"さいなんかいせん"…?」
山野井はノートパソコンを鷲掴みにすると車に飛び乗った。

大音響と共に教団へ突き刺さったのは現代のメカニズムとは不釣合いな降下ポッドであった。
シューとエアロックの外れる音がすると見たこともない武装をした男女が飛び出てくる。
「ゴー!ゴー!ゴー!シェード!アンプ!左右を確保しろ!」
「"ラジャダット!"」
「レフトクリア!」
「"ライトクリア"」
鏡子はこの菌類で張り巡らされた部屋でうつ伏せに倒れこんでいた。
「生存者だ!まだいるぞ!」
鏡子の直前まで迫っていた灰色の蟹はシューと一言発すると攻撃対象を変えた。後方のツメで立ち上がると腹から緑の溶解液を噴き掛ける。
「"コンタクト"」
「マス!スコージだ!やれ!」
「死にやがれこの蟹野郎!」
六砲身のチェーンガンが唸りを挙げスコージをミンチにした。
「ストーンコールド!生存者は!?」
「この作戦では関係ない。やつらの隕石はこの付近に反応があるぞ。エコー中隊全員突撃!」

そして忌々しいこの部屋にはスコージのミンチと鏡子だけが取り残された。


TVニュースでは新興宗教団体本部に起った爆発と、めちゃくちゃに破壊された建物の報道で連日賑わっていたが鏡子は衰弱しており、ベッドでTVを横目に観るのがやっとだった。山野井がコップに汲んだ水を差し出す。
「それにしても"さいなんかいせん"には頭を捻ったぜ」
「ごめんなさい。もう今にも殺されそうで"Scourge Outbreak"なんて血文字を書いている暇がなかったの。そう書くのが精一杯だったし失神しちゃって」
「さすがに解らなくてさ、車運転しながら"さいなんかいせん"ってネット検索したら"Scourge Outbreak"ってのが引っかかってそれで合点がいったんだ。あれゴシップなんかじゃなかったんだな」
「あの軍人さんたちは?」
「さあな。"Scourge Outbreak"で検索したらどっかの宇宙ステーションのサイトに飛んでさ、そこにはでかでかと"すぐにここに連絡を入れろ"ってあったんだ。藁にもすがる思いであそこの住所を入れてやったぜ。さすがに大気圏外から来るなんて思ってもみなかったけどよ。俺の車よりずっと早く到着してんだからな」
「…山野井君」
「なんだよ」
「ありがとう」
「ばっか、早く寝てよくなれよ。病院も1週間で退院できるってさ」

──TVの報道では教団に多数の死傷者が出、死亡者の名前も公表されたが、そこに野狩歩の名前を確認することはできなかった。


http://gtm.you1.cn/storesteam/app/227560/
http://gtm.you1.cn/sharedfiles/filedetails/?id=246261405

諏訪鏡子 編#2
http://gtm.you1.cn/id/helmise/recommended/249330/
Posted 10 July, 2016. Last edited 12 July, 2016.
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4 people found this review funny
118.4 hrs on record (27.2 hrs at review time)
DLCを買ってもすぐにはゲーム内で反映されません。
service@gameus.co.kr
反映されない方は上記のメールアカウントにサポートを要請するとアンロックされます。
メールの言語は英語がよいでしょう。(韓国語も通じるかも)
僕の場合はサポートが完了するまで8日間を要しました。

各DLCにある☆☆☆☆☆キャラカードはおそらく全てゲーム内で手に入るものと変わらないと思います。


<そんなことを書きつつ、結局20時間以上もプレイしてしまった人の戯言>
ゲームプレイに慣れてきたので簡易プレイガイドみたいなのを。
STEAMから本体を買うだけでスターターキットとしていろいろくれます。
(価格的にはこの前のサマセみたいな75%OFFで買うのが正解)

特に有効なスターターキットのアイテムを挙げると
・☆*5のベッキー、エマ、レイチェル
貴重品いきなりの☆*5ですがポテンシャルが非常に高いので育てて損はありません。☆*5は最終段階の進化でも必要なので失わないようにロックしておきましょう。

・強化カードの紫のメガネっ娘
貴重品。低価格で大きくレベルアップできるので本命機体に使いましょう。

・ゴールド
超貴重品。何かと使いますが、普通にプレイしていてもなかなか補充されません。実質的に残機体が増え、条件を満たすと編成強化の補正が入る編成スロット拡張が最もオススメです。

・スクロール
貴重品。「?」のカードを拾うことがありますが銅や銀では使わず☆*4の期待値の高い金の「?」で使っていきましょう。これもなかなか補充されません。

やりくりをきっちりしていけば特におカネを投入しなくても問題ないシステムになっています。
貴重品シリーズは無駄にしないように使っていくといいです。

ショットについて。
☆*5ベッキーに代表されるように拡散ショットは道中で非常に有効ですが、一部のボス戦では弱点部位まで貫通せず不利になります。貫通属性の機体が手に入ったらキープし育て、ベッキーで勝てないボス相手にチェンジするのが効率的なようです。

レアリティについて。
☆*3以下はポテンシャルが低いのであまり実プレイで育てないのが無難です。進化素材としては☆*3以下のレベルマックス機体は必要になるので訓練で平行してレベルを上げておくとよいです。☆*3以下を自力で育てながら攻略しようとするとポテンシャルの低さから詰みになりやすく、悶絶する可能性が高いです。

ジェム稼ぎ。
1日3回だけプレイできる「アルバイト」のコンテンツを探しましょう。メインメニューから「その他」→「アルバイト」で行けます。

助っ人(友達)について。
助っ人機体はボス戦を攻略する上で重要なダメージソースとなります。友達がいない場合、ランダムなリストから選択することになりますが、友達登録が成立すると指定して助っ人を日に何回か呼べるようになります。
また助っ人を発動するとFPがたまります。(逆に、呼び出されてもFPがもらえるかもしれない)
FPをためるとFPガチャという機体カードを入手できるがチャを回せます。1回分お得な11連までFPをためるのがオススメです。

クエストが1プレイ一分半ぐらいの手軽に遊べる時間なのでそのへんがこのゲーム最大の強みに感じます。

http://gtm.you1.cn/storesteam/app/440810
Posted 5 July, 2016. Last edited 13 July, 2016.
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16 people found this review helpful
10 people found this review funny
10.8 hrs on record (10.5 hrs at review time)
玄関の覗き窓から外を見ると、真夏だというのに葬儀にでも行くような格好の女が立っていた。黒のアンサンブルでキャペリンまで被っている。
「東雲さんのお宅ですか。諏訪神社から来ました諏訪です」
チェーンを外し、ドアを開けると疲弊した顔で"諏訪神社 諏訪鏡子"と書かれた名刺を差し出す。
「4階まで階段しかないんですね。すみません。わたしちょっと体力なくて…」

東雲瑞希は丸の内の中堅商社で働くOLである。このアパートには住んで半年。近所に大工場があり、朝と昼に操業の騒音が鳴り響くものの、立地の割には部屋代が格安なので、不動産屋と下見に来て一発でこの部屋に入居を決めた。
だが住んでみてしばらくするとこのアパートの奇妙さが段々と気になってきた。どうも他の住人の気配がないのだ。たまに住人らしき人影を見かけてもはっきりと姿を見せないままどこかに消えてしまう。
不安感が決定的になったのは昨夜の出来事だった。仕事から帰ってくつろぎながら何気なく玄関を見ると、郵便受けのカバーが押し上げられ誰かがじっとこちらを見ているのだ。その目つきは人間のものというには目の感覚が離れており、とても小さかった。しかも遠目ではっきりと解るほど肌の色が黄色い。郵便受けの造りのチャチさなど今まで気にも止めなかったが、ドアの向こう側に異様な姿をした変質者が立っていると思うと、この造りの酷さにはゾッとしない思いだった。
あまりの怖さに声も出せないでいると、そのうち部屋の外でガヤガヤと複数人の話し声が聴こえてきた。その声は少なくとも日本語には思えなかった。ドアノブまで静かに回している。しばらくして静かに金属のこすれる音がしたかと思うとドアロックが開けられてしまった。玄関は開き3人の何かが部屋に侵入してきた。その姿はこの世のものとは思えない奇妙なもので、黄色い肌だと思ったものは真っ黄色の毛だったのだ。小さく離れた目の間には、やはり小さなオレンジ色のくちばし状の口がついている。全身が黄色の毛で覆われた者たちは明らかに人間ではなかったのに、ごく普通の白いランニングシャツを着ているのが気持ち悪さを増幅させている。何事かこちらに話しかけながらそれらが近づいた時、瑞希は失神していた。
目が覚めると何もおらずドアもロックされている。ただ玄関には土足で上がった跡があり、黄色い者たちは夢ではなかったことを物語っていた。
恐ろしい体験に瑞希は会社を休み、警察に電話したもののそれは簡単な事情聴取で終わり、あまり相手にされる感じではなかったので、しばらく考えた末、近所にある諏訪神社が除霊の相談を受け付けているのを知っていたのでここに連絡をしたのだった。

「東雲さんは他の住人って言いますけど、たぶん誰も住んでないですよ。このアパート」
「どういうことですか」
「誰もというか人間の住人は東雲さんだけだと思います」
瑞希は背筋の凍る思いだった。
「インターネットはあります?」
ノートパソコンを差し出すと諏訪が衛星写真のサイトを出す。
「これ。依頼を受けたとき見たんですけど、屋上にバラックが建ってる構造はあまりにも奇妙だと思いませんか?」
瑞希が住んでいる404号室の左隣は403号室。右隣は屋上へと続く階段だった。
「今回のご相談は2万円でいかがでしょう。ただし除霊の規模が大きくなる可能性が高いのでその場合はその都度、相談料の提案をさせて頂きます」

「お隣の方は既にお亡くなりになってますね」
403号室の郵便受けから部屋の中を覗き込んだ諏訪はあっさりと言う。玄関ドアは瑞希の部屋と同じ構造なので中が見られるのだろう。瑞希も覗き込むとカビだらけの部屋に小さく白骨死体が見えた。白骨死体を壁一枚を隔てて半年も暮らしていた事実を知ってその場にへたり込む。
「これって…」
諏訪の方を見ると屋上へ続く階段から膿だらけの赤黒い腕が二本伸びて、諏訪を屋上へと引きずりこんでいるところだった。
「東雲さん逃げて!」
その言葉を最後に諏訪は消えてしまった。

呆然とした瑞希だったが、事態の緊急性に気を取り直して自分のベストな選択を考えた。自分の部屋に戻ると奥へ隠すようにしまっておいたミロクの上下二連散弾銃を取り出した。12ゲージショットシェルを2発込めるとパチリと閉じる。すり合わせの見事な業物だった。

屋上への扉は普段閉まっていたが開きっ放しになっている。その先には衛星写真通りの木造バラックがあった。ドアノブには鍵がかかっていない。そっと静かに開いて銃を構えると、部屋の中央の机で側頭部にしか髪のない膿男が必死に抵抗する諏訪の首を絞めている。諏訪は散弾銃を構えた瑞希にびっくりした様子だったが部屋の神棚を指差した。
「壊して!」

──いつも通りに工場の操業が始まり、大音響の中、瑞希は発砲した。

べっちょりと床に潰れて動かなくなった膿男を諏訪から引き剥がす。
「諏訪さん!諏訪さん!」
「う~ん…あと1万円相談料に追加して…」
「ちょっと!」

神棚は恐らくこのアパートの家主の霊を維持するための装置で、膿だらけの男は家主そのものだったのだろうと諏訪は説明した。家主は何らかの事情で死んだが、死霊魔術の儀式で霊体化し、自分自身の遺体を操っていたらしい。霊体側を維持するには生気を調達する必要があったが、アパート自体が住人から徐々に生気を吸い上げる仕組みなのだという。肉体には防腐処理が施されていたが、経年により崩壊寸前だった。
「不動産会社を仲介すると家主は一切姿を見せずに入居させることができますよね。この家主は生きているのと殆ど変わりがないわけだから」
「黄色い人たちは…」
「まあ、家主と関係してるんでしょうけど、また来るでしょうね」
「わたし散弾撃っちゃったんだけど!──あぁどうしよう!絶対取り調べになる!」
諏訪は携帯電話を取り出す。
「山野井君、またお部屋が除霊で汚れちゃったの。クリーニングキット一式持ってきて。死体袋?1個でいいよ」
瑞希の方を見てにっこりと笑う。
「家主さんがいなくなったからこの先お家賃タダですよ」
「すぐに引越します!」
「山野井君?依頼者が引越しもしたいって。おっきい車で来て」

諏訪は何かすごくいい事をしたような笑顔だった。


http://gtm.you1.cn/storesteam/app/249330/


諏訪鏡子 編#1
http://gtm.you1.cn/id/helmise/recommended/331290/

東雲瑞希 編#1
http://gtm.you1.cn/id/helmise/recommended/7940/
Posted 30 June, 2016. Last edited 11 June, 2021.
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6.8 hrs on record
S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl
日本語版翻訳権独占
へるみ書房
©2016 Helmi Publishing,Inc.

PDAに着信した"どこにも所属していない流れ者がいる"という情報に、降り注ぐ雨の中、俺はじっと森の中で伏せていた。
双眼鏡で監視すると、確かに50がらみの男が土砂で塞がったトンネルの中で、焚き火をしつつウォトカをひたすら飲んでいる。恐らくどこかで被爆したのだろう。
(訳注:ウクライナでは体内の放射性物質をウォトカで洗い流せると信じられていた)
腰に下げた拳銃は間違いなくサプレッサーつきだった。他に武器を持っていないか入念に監視する。奴の拳銃を狙い続けて俺はもうここで2日間じっと監視を続けていた。奴を殺して奪いとっても騒ぎを起こされて他の組織にばれるのはまずい。誰にも見つからずにあの拳銃を奪いたい。
夜になり、辺りは真っ暗になった。
──仲間なし。拳銃以外の武器なし。
そう結論付けて行動に移すことにした。この辺の森には野犬がうようよいる。俺はあらかじめ特に野犬が群れているポイントを調べ、PDAでスポットしておいた。ポイントに移動すると相変わらず感染症だらけの汚い野犬が群れている。こいつらはどうも以前より増えたような気もする。
俺は背嚢から紙にくるんだ缶詰の肉を取り出す。現場で缶を切らなかったのは野犬の嗅覚を恐れていたからだ。手間取れば襲われるのは俺になる。紙で巻いてボール状になった肉を野犬の群れにぶん投げる。ベチャッ!と肉が地面で潰れ、臭いを嗅ぎつけた野犬がすぐ集まってきた。自分に肉の臭いが残らないように俺は場所を移動しながらボール肉を撒き餌にして、だんだんと例のトンネルへと野犬どもを誘導する。奴のトンネルがすぐそばになった時、俺はトンネルに向けてボール肉を投げつけ、小枝を踏まないように音を消し、闇に潜った。
数分も経たないうちに奴は野犬の群れに取り囲まれているのが双眼鏡で確認できた。奴は拳銃で応戦していたが、サプレッサーが仇となりこちらに発砲音は全く聴こえない。野犬の吠え声も雨音に紛れてこの距離では全くしなかった。

雑に食い荒された奴の身体を探ると少量のウォトカの他には食料を持っていなかった。だが俺はうち棄てられた消音拳銃をまんまと自分のものにしたのだった。

俺が以前何をしていたのかは全く記憶がない。俺を拾ったというトレーダーのじいさんの仲介でこのキャンプの行き来はできるようになったが、相変わらずここでの俺は余所者には変わりない。キャンプではじっと双眼鏡で周辺の様子を探っていた。キャンプのバンデッドに「何を探しているんだ」と尋ねられもしたが、「地形を見定めているんだ。土地勘がないもんでね」と適当に返事をした。地形を見ていたのは事実だが、俺はもう一つ探っているものがあった。このキャンプから持ち去れるものはないかと。これは何がそうさせているのかは説明はできないが、俺の持っている本能的な習性なのだろう。
俺にははずっとチェックしているものがあった。ボロボロの家屋の屋根裏に見慣れたラベルの貼ってある木箱があるのだ。このキャンプの住人の装備は極めて貧弱で、そこから考えてもこの木箱はどう見てもデッドストック品だと判断している。白昼堂々持ち去るわけにはいかないので俺はこれを奪う機会をずっと伺っていたのだった。

真夜中のキャンプにはフラッシュライトを点けた歩哨などの人影はあったが、雨はどしゃ降りになり、盗みをするには絶好の状態だ。
俺は木箱から近い家に梯子を伝って登った。屋根が急勾配なので雨と一緒に地面に落ちそうになるが、なんとか踏みとどまる。辺りを見回して人に見られていないのを確かめると、全力疾走して木箱のある家の屋根に飛び移る。跳躍がやや足りず俺はあわや転落しそうになったが、ナイフを屋根に突き立てて腕力で一気に身体を持ち上げた。荒くなった呼吸を整えながら、裂けている屋根のところまで回り込む。
あった。この木箱だ。ラベルには [PSZ-7]と印刷されている。手の届かない位置にあって今まで開けることは叶わなかったが、少し前に手に入れた消音拳銃で撃ち、中身を傷つけないように慎重に木箱を割った。間違いない。中身はあのジャケットだ。俺はナイフで届くギリギリの範囲にあるジャケットを手繰り寄せる。着ていたボロボロのジャケットを脱ぎ棄てると俺は新品のジャケットに袖を通す。サイズもぴったりだ。
──以前の俺は確かにこのジャケットを着ていたんだ。

俺はジャケットに鼻を当て匂いを吸うと、自分が何者であったかいずれ思い出せそうな気がしていた。


http://gtm.you1.cn/storesteam/app/4500/
Posted 27 June, 2016. Last edited 27 June, 2016.
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123.1 hrs on record (121.7 hrs at review time)
※本レビューはフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。

日暮里にある月島組の若頭、島田は組長である月島洋次の親戚筋に当たる。長女の月島周(あまね)とは歳が同じで子供の頃から「周の盾になれ」と言われてきて育った。島田は子供の頃「将来の夢は?」と聞かれると「絵描きさん」と答えていた。今では立派な極道で、シノギの絵図を描いている。

先日、組長に呼び出された用件はこうだった。「シノギを上げろ」と。島田は風呂で絵を描いていたが「2、3発は殴られてもいいかな」と独りごちて風呂を上がる。

島田は昼下がりになってから、秋葉原の喫茶店へ周を呼び出していた。
「で、相談って?」
周がセブンスターを取り出すと島田が全く無駄のない動作で火を点ける。
「へえ、オヤジ(組長)からシノギを上げろと言われやして、それで絵を描きました」
「どんな絵だよ」
「キャバクラをやろうと思うんです」
「キャバねえ。場所によるだろ」
周は煙を吐き出しながら含み笑いをする。
「秋葉原でキャバです。不良債権で獲れそうなハコ(店舗)が見つかったんで。客層の分析はできてますし、ハコがあれば店長もキャスト(キャバ嬢)も手配できます」
「秋葉原だろ?新規にキャバで切り込めると思ってんの?」
「キャバの弱点は長期で太い客を繋いでおく手段です」
「いくらオキニ(本指名のキャスト)でも長い関係になるとマンネリになるからね」
「そこでうちのキャバでは若の得意なポーカーキャバにしようと思うんです。客とおしゃべりしながら酒とポーカーを楽しむ、そんな店で。指名に拘ったキャバのやり方も革新します。もちろんカネを賭けたら即刻しょっ引かれるので賭博行為はなしで、代紋を出さずにうちのフロント(企業舎弟)にやらせます」
「まあ客を繋ぎ止める手段としては新しい部類かもな。でもうちのシマじゃない」
組のシマでもないのに商売を始めれば当然抗争に発展する。
「へえ。で、その債権のハコを切り取る権利を、うちの秋葉原の賭場とトレードすることで兄弟と交渉がまとまりそうなんで」
「ばっかやろお前」
周は手を挙げたが島田が「どうぞ殴ってくれ」という顔をしていたのでやめた。
「アキバの賭場は月島が二代で守っている飛び地のシマなのは重々承知していますが、私にはまだ考えがあります。若はポーカーディーラー、やりたいですよね?」
内心「ウッ」と欲望を突かれる思いだった。周がポーカー世界大会のディーラーに憧れているのは島田もどこからか察していたのだ。
「そのキャバで若はディーラーを好きな時にやっていいってことで如何で?」
硬化していた考えがぐらつく。
「…親父が許さないだろ」
「私と若でオヤジを説得しに行けばこの話は成立します」
秋葉原の賭場を守ったのは確かに父親であったがシノギとして大きくしたのは周だった。

合議の結果、周の進言もあり組長は渋々ながら島田の提案を受けた。
オヤジの許しが出てからの島田の動きは早かった。シマのトレード話を兄弟分と纏めると不良債権化していた秋葉原のビルに居座っていた不法占拠者を手下を連れて駆逐。カタギの入居者は女を使ってスキャンダルにし、まんまとビルのフロアを全て手に入れた。ビルはポーカー遊技場を兼ねたキャバクラとして改装。自分の組のフロントに登記させ、スタッフを手早く手配し営業させた。島田にとってこの手の手配は得意なもので、洟(鼻水)をティッシュでかむより簡単なものだったのだ。キャバクラは周が国外カジノで鍛えた本格的なディーラーの腕前も評判になり、暴れ者の少ないオタク気質の客層を狙った島田の睨み通り太いシノギになった。

半年後、島田はトレードの弾にしていた秋葉原の賭場をシマごと兄弟の言い値で買い戻していた。
飛び地ながら月島組は秋葉原のシマを2つに増やしたことになる。

月島組では島田の報告会も兼ねて再び組長、周、島田が集まっていた。
「というわけで若には賭場のシマをお返しすることに致します」
酒を島田に注ぎながら組長が島田に尋ねる。
「買い戻すところまでお前の絵図だったのか?」
「いえ、買い戻せるかは時の流れと運気に左右されるので五分五分のところで打ちました。ただ、交換先は若抜きで賭場を維持できるわけがないのは解っていましたから」
秋葉原の賭場は地代が高かった。月島ではシマとハコは持っていたが土地の権利はなく、地代は地主に納めていたのだ。賭場は周の手腕で成り立っていた。周の不在より大幅に質の落ちたマッチングでは客が去るのも時間の問題に過ぎなかった。
「お前の兄弟とやらも地代の高さにたまげたろうな」
組長はフフと笑う。月島組のような小規模な組が支払っていくにはあまりにも莫大な地代を無意味とも思えるほど組長は納め続けていたのである。メンツだけでこれだけのことをするのはなかなかできないだろう。
「兄弟の方じゃすぐピーピーになりまして。機を見計らって言い値で買い戻しました」
ここが島田の上手いやり口で、不良債権を大金で買い上げるならば恨みを買うどころか相手から感謝される。
「島田、どこでそんなシノギのやり口を学んだ?」
「へえ、いつだったか若が"テキサスホールデムも知らないのか、お前はこれでもやってみろ"とやらされたコンピュータのゲームがありまして」
「お前ポーカーナイト2でこの絵図描いたのか?」
ハッ、とした表情の周。
「へえ、あのゲームで太いシノギをとるには、まず自分から見せ金を出してガッポリ回収することを学んだんで」
「太い釣りをするにも太い餌が必要…か」
組長はウウムと腕を組んで目を閉じる。そして一言漏らした。
「──お前が周と一緒になって組を継いでくれれば俺も安心して隠居できるんだが」

一方、周はさっさと部屋から出て行ってしまった。


STEAM初級者向けソフトウェア。
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<ゲームガイドはこちら>
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月島周 編#1
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Posted 18 June, 2016. Last edited 22 July, 2017.
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6.0 hrs on record (6.0 hrs at review time)
校門には2人の出迎えがあった。
「諏訪先生ですね。よく来て下さいました。この学校の生徒で藍咲沙苗といいます」
「僕は山吹楓。よくこんなド田舎まで来てくれたもんだぜ」
金色の髪をした楓はいたずら小僧のような口ぶりをする。
「ちょっと!楓!わざわざ来て下さった先生たちにそんな口の利き方はないでしょ?」
眼鏡をかけた黒髪の沙苗はしっかりした子のようだった。

「このゲームなんです」
沙苗は本堂にあるパーソナルコンピュータを指した。
「僕らこのパソコンのゲームで遊び始めてからおかしなことばかり起こるんだ。3人とも日中に目が突然見えなくなって真っ暗になっちゃったり」
「先生、お気づきかもしれませんけど…」
「この学校の周りに霊の気配を感じるわ」
「さっすが先生!ね、先生も諏訪大社の巫女なんでしょ?」
楓が憧れるような目つきで鏡子を見る。
「諏訪大社は総本社で私は古代に勧請された土地の諏訪神社の巫女。小さな神社よ」
「それで先生、先生たちに依頼するきっかけになったんですけど、ゆう、わたし達と同じこの学校の生徒の三原ゆうが霊夢を観たというのです」
「原因はこのゲームにあって、ちゃんとクリアしないと霊障から逃れることはできないんだってさ」
「電子ゲームでねえ。鏡子ちゃん?」
「ないとも言えないこともないけど現場を見てみないと」
沙苗がゲームを起動すると件のゲームのタイトル画面が映し出された。
「このゲームすっごくムズいんだ」
楓から差し出されたゲームパッドを鏡子は受け取らない。
「山野井君、先にやってよ。私は傍で見て検証するから」
ものの1分でゲームオーバーになった。
「これ上手く操作できん。上から弾が降りてくるのを交わし続けるんだけどスティックがダメだ。Xbox360のコントローラだろ?これじゃ百年プレイしてもクリアできねえよ。操作はスティックの方しか利かないし。10分待ってろ。半田付けしてくるから」

時間通り車から山野井が戻ると、プレイステーションのコントローラにアダプタを経由してUSBで差せるものを作ってきた。
「こんならできるぜ。楓ちゃんやってみ」
「あっ、すごく操作しやすいぜ。沙苗」
「Xbox360のアナログスティックはさ、ストロークが深いから小刻みに操作すんのには向かないのな。んでそういう旧式のプレステのキー入力なら小刻みに移動させんのも簡単なわけ」
「コントローラか」
後ろに立つ人影に全員が振り向くと、紫の髪色をした眼鏡をかけた少女が立っていた。この子が霊夢を観たという三原ゆうなのだろう。
「あぁっ。ちっくしょやられちまった」
「かして」
ゆうは楓からコントローラを奪う。
「これは自機の判定は上側」
最高難易度にもかかわらず弾幕を器用にかわしていく。
「通り過ぎる弾は下半身をかすらせるようにすれば当たらない」
あっという間にクリアしてしまった。そのままゆうは床に倒れこむ。
「ゆうちゃん身体弱いんです。楓、ゆうちゃんを寝所に運んで」

「三原さんの霊夢通りなら霊障はこれで解決ということになりますが」
「除霊も何もゲームしてクリアしただけだからな」
「山野井君、霊、遠ざかってるよ」
「本当!学校のヘンな雰囲気がなくなりましたね」
「今回の相談料は交通費、諸経費…9000円でどうだろう。もう除霊しちゃったわけだけど」
「わかりました。お金を用意します。今夜はもう遅いので夕食をご用意させて頂きました。今夜は寝所でお二人ともお休みください。今日は本当にありがとうございました。わたし達の事、本気で相手にしてくれたのはあなた達だけです。感謝しています」
確かにゲームに熱中しているうちに夜も更けていた。近所に民家がないので辺りに明かりもない。

翌朝、二人は荒れ果てた寝所で雑魚寝をしていた。床板は腐り、ところどころが抜けている。天井も穴だらけで巨大で分厚い蜘蛛の巣がひっしりと張っている。枕元には茶封筒があり、中には聖徳太子の五千円札が1枚と伊藤博文の千円札が4枚入っていた。
「もうあの子たちはいないようね」
「どうもそのようだな。そもそも学校だっていうのに3人しか生徒がいないってのは異常すぎた」
本堂に行くとやはりそこも寝所と同じように荒れ果てていた。ただパソコンだけが経年を感じさせない。
「山野井君!触らないで!それおかしい!」
ビクリと山野井が動きを止めると鏡子が護符をパソコンに投げる。護符はみるみる黒く変色し朽ちていった。
「これは強力な呪術よ。諏訪大社の護符が一瞬で朽ちてしまうなんて業の深い…山野井君、彼女達は消えたんじゃなくてきっとあのパソコンの中にまだいるわ」
「なに?」
「パソコンの開け方を教えて」
「背面のネジ4つを手で回すだけだ。それでカバーが外れる」
「山野井君は危険だから建物から出て。あとは私がやるから」

鏡子は3つの小箱を大事そうに抱えて出てきた。
「酷い…これ耳朶贄(じだにえ)よ」
「まさか…」
「生贄にする人間の耳や鼻を生きたまま削いで小箱に閉じ込めて怨念を強める呪い。どうしてこんな事…」
「話がおかしいな。あの学校にはインターネットの設備がない。依頼はネットから来たんだぜ?」
「霊にネットは使えないわ。誰かが、強い呪術者ね。私達をここに呼び込んで呪い殺すために…」
「ネットは無線でやったんだな。でも誰が」
「解らない…山野井君、壷と盛り塩を持ってきて。あと蝋燭とマッチ」
ハイエースから戻った山野井を鏡子は遠ざけた。
「見えないところまで隠れて。この箱を開けた瞬間にいろいろな霊がまた集まってしまう。山野井君はそれに耐えられないわ」
「解った。でも鏡子ちゃん」
「私は大丈夫。この子たちの話覚えてる?この子たちは私をもう呪わない」

鏡子は3つの箱に張られた護符を読んだが、墨で書かれた文字が朽ち果てていて辛うじて藍咲沙苗、山吹楓、三原ゆうの名前が読み取れる程度だった。慎重に箱を開けると真っ黒になった肉塊を素手で壷に移し変える。壷を盛り塩で満たすと蝋で口を封じた。護符を貼って仕上げる。

「帰りましょう」
「その壷、持ち帰るのか」
「1年後に儀式をやれば彼女たちは解放されるわ。塩が彼女たちの怨念を吸い取りきる頃に」
車に乗り込むと壷を抱えた鏡子は強烈な睡魔を感じた。
「寝てるといいさ。運転はまかせとけ」

「山野井君、夏祭りの後の夜空って、なんであんなに切ない気分になるんだろうね」
山野井がカーステレオを立ち上げると昨日プレイしたゲームのBGMが流れはじめた。
Posted 5 June, 2016. Last edited 10 June, 2016.
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38.5 hrs on record (31.0 hrs at review time)
※本レビューはフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。

日暮里にある月島組は銀星会傘下の二次組織である。
東京圏ではド田舎組として知られていたが、堅い地盤を持つことも同時に一目置かれていた。その他に月島組では秋葉原に猫の額ほどの飛び地でシマを持つことでも注目されている。このシマは先代が抗争で切り取ってから「いずれ使う日がくる」と言い残し、組長が守りきっているシマでもある。月島組の主なシノギは博徒であり、細々と賭場を収入源にしていたが、秋葉原のわずかなシマで闇将棋などの賭場を開いて大きなシノギにしたのはその実子であった。

「川田遊興会の会長が死にました──」
月島組若頭の島田はそう切り出した。
「カタギの俺には関係ないだろ」
月島周はセブンスターを取り出すと島田が全く無駄のない動作で火を点ける。
「西でも若に関係あることです」
若と呼ばれる通り周は月島組組長である月島洋次の実子である。しかし実子でありながら月島は組長に組を継ぐ意思はないと直談判している。『対暴法が強い今、代紋でシノぐ時代ではないと思います。自分はカタギの身分で博徒道を極めさせてください』そういった口上に組長は手を叩いて喜んだ。『我が子とはいえさすがに大学までやっただけあって周は世相を冷静に読んでおる』と。
月島は大学三年の時にキャンパスで闇賭場を開いて退学させられていたのだが…。組は若頭の島田に任せるということになった。その後はマカオでカジノの日本人向け手配師をやったりして暮らしていたが、3年前には日本に帰国していた。何をしたのか強制送還である。スジ者では書類が通らないので国外から出て稼げない。月島がカタギなのはそういう理由だった。

「会長が遺した遺言状で川田のシマは大変なことになりやして」
川田遊興会は銀星会傘下の博徒連合で本拠地は関西であったがその影響力は東側でも計り知れない。
「会長は賭場の実力で一番になった者を後継者に指名すると」
西の巨大組織である。会長職に着けば莫大なシノギになるだろう。だが月島は興味を示さない。
「組長(オヤジ)は若に相談しろと」
「渡世の話なら自分でやればいいだろ。俺がやるスジはないね」
「それが花札(ハナ)でして──」
「お前だってハナは得意だろ」
博徒の若頭は当然あらゆる博打に精通してる。
「こいこいだって言うんです」
月島の眉根が僅かに上がった。渡世では運任せのルールとして誰もやっていない。
「川田の兄弟が言うには誰も鍛えていない札だからそれで会長は、という話で。場は来週です」
話は解らないでもない。不完全情報でも運を掴めるヤツに会長の資格があると言いたいのだろう。月島は察しが早かった。
「島田」
いきなり蹴り込まれて島田は床に倒された。
「『若』はもうやめろ。俺はカタギなんだ」
「・・・へい」
月島はカタギ気取りで組員に優しかった。組員がどんなヘタを打っても幼馴染の島田にしかケジメをとらない。そんな月島を慕って島田のように直に殴られたい、そう思う組員さえいた。


──広島は紙屋町の和室。
「ではお二人さん、決着に恨みっこなしでお願い致しやす」
見届け人の声で十二番勝負が開始された。全国各地の会長立候補者は5枚の絵葉書を持つ。候補者はこいこいの勝敗で1枚の絵葉書を奪う。全国に配布された45枚の絵葉書を1ヶ月のうちに最も多く集めた者が会長の後継者となる権利を得られるのだった。
「うちの人から月島さんは出んじゃろと聞いとったけえ」
谷垣藍は女でありながら集英会所属の博徒である。賭場では知らない間柄でもなかった。初戦からお互いに厄介な相手だと緊張感が走る。場は荒れていた。お互いの手札を出しても、綿密に数手先を行った役の成立をお互いに妨害しているので、山札から役が組み立てられないのである。こいこいとは思えない膠着ぶりに立会人たちの背筋が凍る。
「…姐さん着物似合いますね」
藤色の着物はよく着付けてあり藍のボディラインを美しく引き立てていた。だがその和装には不釣合いなショートヘアーが気になった。なぜ髪を断ったのか?月島はこの事を藍のキズ(手癖)の判断材料にしていいと考え始めていた。

「──あんたのキズ、見えんもんじゃのう。先の勝負も気張りんさいや」
「有難うございました」
六番とられたが後半の六番で見えてきたキズから切り崩して逆転。月島は土壇場で勝負の形を作り藍を下していた。
「月島さんがハナをやるとはねえ」
「こいこいって聞いたもので。自分を見たかったです」
その一言に藍は立ち上がった。
「東京モンのワレにとってはハナは遊びかもしれんけどのう!うちはな、ハナに命賭けとんのじゃ!」
着物の上半分をはだけて半裸になる。その背中には花札の絵柄である鳳凰が美しく刻まれていた。

──その艶やかさに気圧され、綺麗だと思った月島周(あまね)は自分がやはり女なのだなと実感していた。


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Posted 29 May, 2016. Last edited 22 July, 2017.
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