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21.3 hrs on record
教会の隣は空き家だった。
この不気味な空き家なら人が近寄らないし、屋根裏なら階下に誰か入ってきても察知することができる。それが発端だったと思う。屋根裏には小窓がついており、辛うじて教会の裏庭が見える。そこは教会墓地だった。柔らかな風でマリーゴールドが揺さぶられているのが目に映る。みんなで彼女のために何か捧げようと、話し合って植えられた花だ。

明かりは蠟燭の火だけ。薄暗い屋根裏へ通じる、床面の戸板がとんとんとノックされる。か細いノックだったが、それは誰がノックしているかを教えている。オーブリーはノックに答えない。毎回繰り返されるノックと無言の返答。茶番だったが、いつだってそれが変わったことはなかった。戸板が押し上げられると 顔を出したのはバジルだ。不安そうな、それでいてやはりオーブリーが居ることを認めて安堵したような、そんな掴みどころのないはっきりしない、おどおどとした雰囲気だ。

オーブリーはそんなバジルが大嫌いだった。

「なんでいつもノックするの」
「返事がなければ君がいるってことだから……」

オーブリーはバジルのこういうところが特に気に入らなかった。
イラつく感情に任せて不意に頭突きをすると、バジルはよろめき倒れてしまう。少量の鼻血が出ている。もっと勢いをつけてやってやればよかった。いくつも並べられた燭台の火に炙られるように、バジルとその影がゆらゆらと立ち上がる。
「出しなよ」
バジルは鼻血を拭いながら、僅かに震える手でラタン素材のバスケットを、おずおずと差し出した。開けて中を確認すると苛草(いらくさ)がみっしりと詰め込まれている。
「ふうん。今日はいいやつかも」
「棘には毒もあって痛いよ」
余計なことを言うので睨みつけるとバジルは顔を伏せる。床からホームセンターで買った太い鎖を、じゃらりと持ち上げるとそれが始まりになった。


木製のバットに苛草を巻き付けるのはそう難しいことではなかった。苛草の棘も木部によく食い込むのか固定がしっかりする。巻き付け作業で多少の棘が指に刺さったが確かに痛い。毒でかぶれるのか刺さった個所からはジクジクと痛みが広がった。確かに痛いものなのか
オーブリーは確かめる性質(たち)なので手袋などしない。いつもいつも本当に痛いのか、ちゃんとバジルが苦しむのか自分で確かめる。
目の前には両腕を鎖で広げられたバジル。パンツ一枚になれと命令しておいたので、なんだか神の子の最期のような惨めな姿だ。今日は思い切り殴りつけるよりは、苛草の棘で肌を切り裂いた方が効果的に思えて裸にしてやった。

裸のバジルには今までやった分の、いろいろな傷跡や、赤黒かったり青紫の色をした痣があった。日常生活でバレないように、できるだけ胴体にやるようにはしていたが、結局は感情の勢いで顔面を殴ったりしてしまったりしているので、オーブリーのそんな配慮も破綻している。「絶対気付かれないようにしろよな」と囁いて帰しはするのだが。顔はやっても加減しておけばいい。16歳の少女に過ぎないオーブリーの認識はその程度のものに過ぎなかった。

両手両足を拘束され、古びた床板へと跪いたバジルに、バットをぐりぐりと押し付けていく。バジルの呻き声が聞こえた。
「痛いんだ?」
「……」
「何かいいなよ」
「……マリちゃんのこと覚えてるの、もう僕たち二人だけなんだね」

苛草バットを振り上げると、バジルの肩口を思い切り打擲した。そのまま胸まで棘で切り裂く。噴き出した血の量は思ったより多かったが、傷口が綺麗なので治りが早くなってしまうかもしれない。出来栄えが気に入らないので、苛草で胸を抉ると傷口が潰れていくのが見える。また治り難くていい傷跡になる気がした。
「お前がマリちゃんをみんなから消したんだ」
「オーブリーがそう思うなら」
「そういうとこ本当にキモい!もっと苦しめよ!普段みたいにめそめそ泣いたりしろよ!」
前に回ったり、後ろに回ったりしてオーブリーはバジルへの打擲を繰り返した。
「なあ?痛いんだろ?痛いって言えよ!」
「……」
「なんでそんなに受け入れるんだよ!?なんで呼び出されて逃げないんだよ!?ポリーさんにも黙ってんだよ!?」
「……」
「答えろよ!!」
「……僕は……楽になっちゃいけないんだ。それがマリちゃんにできることだから」

オーブリーはバジルを傷つけることによってマリに赦されると思っていた。
バジルはオーブリーを受け入れることによってマリに赦されると思っていた。
お互いを求める理由は共有したマリへの赦しだったが、それは決して終息を迎える類のものではなかった。

嗚咽の声をスカジャン姿のオーブリーが漏らす。
「マリちゃん……あたしは絶対に忘れないから。髪だって染めたんだよ……?」
「あぁ帰ってきてよマリちゃん……あの時は消えちゃうなんて思わなかったんだ……」
気が付けばバジルも大粒の涙を流していた。
呪われたようなあの日から、もう四年の月日が過ぎ去り、マリのことを覚えているのはオーブリーとバジルの二人だけになっていた。
「マリちゃん……マリちゃん……」
オーブリーは呟きながらバットの打擲を止め、熱に浮かされたような状態になるとバジルを床に押し倒し、そのまま跨って、直ぐに気をやってしまう。


「ん……マリちゃん?」
自分の感情が昂ったまま失神し、そこから覚醒したような感じで、ぼんやりと目を開くと、下には死んだ魚のような眼をしたバジルの顔があった。なにか口をもぐもぐさせている。何言っているのか聴こえないので、耳を当ててみると「マリちゃんは膝が悪い筈なのにそんな動きができるようになったんだね」などと言っている。それを聞いたオーブリーはこれ以上ない憎悪の感情に満たされ、拳を強く握り固めると、裏拳でバジルの顔面を思い切り殴りつけた。

放心したまま少しの時間が過ぎ去り、オーブリーも服を着直したバジルも教会の屋根裏に座り込んでいる。腫れぼったい顔をさすりながら珍しくバジルから口を開く。
「ねえオーブリー」
「……なんだよ……調子のんなよ?」
「何が?」
「何がって、そういうことがあったからってさ」
ピンクに染められた髪をオーブリーはいじくり回しながら目を逸らしている。

バジルは少し思案した様子の後にこんなことを言い出した。
「マリちゃんのところに植えたマリーゴールドのこと覚えてる?」
「うん」
「みんなが花を手向(たむ)けようって言い出したけど、僕は内心いいことができるぞって思ったんだ」
「いいことって?」
「うん。花を持ってきたのって僕なのを覚えてる?」
「覚えてる」
「あれってオーブリーへ僕からのメッセージだったんだ。マリちゃんと名前が同じだからって最もらしい理由をつけたようにしてたけど。知ってる?黄色いマリーゴールドの花言葉って、"絶望"なんだよ」

察した気がした。バジルはオーブリーが自分を痛めつけるようにコントロールしていたのだ──。
バジルはオーブリーを煽ってもっと自分を傷つけられたがっている。
どれもバジルの想定の範疇。
全てはマリのためってやつか……。


オーブリーはバジルが大嫌いだった。
Posted 1 May, 2022. Last edited 1 May, 2022.
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70.0 hrs on record (41.5 hrs at review time)
アルストツカの雪のように白いレーヴェル・トクビコン中尉が日本の過疎村に亡命して9か月――。

レーヴェは向日葵が日本では食用ではなく、その花を観賞用としてしか栽培していないことに一頻(ひとしき)り驚くと、家主である俺に同意を求めることもなく、庭に畑を切り拓き大量の向日葵を栽培し始めた。日本の夏と向日葵。そこにせっせと農作業に興じる白いレーヴェの姿は、太陽光に照らされると神秘的にさえ思えたが、いざ収穫後になると意外な姿の細片を見せ始めた。
とにかく炒った向日葵の種を食べるペースが早いのである。種をつまんではその殻の絞りのきつい方を口先で縦割りにして、器用に中の種子だけを舌先で口中に運び込んでしまう。3秒に一粒の速度で喫食しているのではあるまいか?俺もやってみたがとても真似できるものではない。どうしても唇が殻と薄渋皮だらけになってしまう。
食事は全て10分以内に済ませることを求められるアルストツカ国民にとっては、これで普通なのかもしれない。

アルストツカ人の喫煙率は国民の9割に及ぶ。レーヴェもアルストツカ時代にはその例に漏れず一日にかなりの量を喫煙していたようだが、日本の煙草は変に甘くて不味い、と漏らすのだ。試しにアルストツカでは主流である両切り煙草であるゴールデンバットを与えてみると、
「カタオカ!日本は素晴らしい国です!」
などと目を煌めかせて云い、日がな一日これを吹かすのだった。しかしそのゴールデンバットがJTによってだんだんと改変されフィルターつきになった時期に及ぶと、
「日本は駄目な国です……」
と評価の掌を返し、販売すらされなくなると、とうとうレーヴェは喫煙に興味失い、全く煙草を吸わなくなってしまったのだった。

レーヴェは日本のテレビが大好きである。放送の在り方については「こんな無法地帯は見たことがありません!」と、見てはいけないけれど、目を放せない存在を見るような恰好でテレビ放送に食い入るのだった。そう、両手で目を覆いながらその隙間からまた覗くような。そんな姿なのだ。

ある日、アルストツカと同じような独裁者による共産国家である、カゾルミアの広報番組が放送されると「この放送は国家機密漏洩罪で処刑されないの…?」と言葉を失う。
その放送内容はただの食事風景だったが、あまりレーヴェにはお気に召さない内容なのか、表情に複雑な感情を滲ませている。この番組を観せてから知ったのだが、彼女は国際外交やイデオロギーの話になると、何か、こう、PTSDのような、あるいはPTSDであるのかもしれない、そういった精神作用から、情報将校時代のレーヴェル・トクビコン中尉の人格に豹変してしまうのだ。

「ふ、ふん。カゾルミアのような六等国の食事がまともなものであるわけがなかろう。そうであろう」
何が彼女をそうさせるのか、視線は放送画面をきつく捉えて離さない。放送によると、カゾルミア国民は大別してA、B、Cの3つの等級食に食事内容が別れるらしい。

始めに紹介されたのは国民C等食。国民の大部分にこのC等食が配給されるとのこと。それはカロリーカプセル数粒という悲惨な配膳内容で、1カプセルで96kcalのエネルギーを摂取できるという、カゾルミアが国家画期的大発明と壮語する品物だった。よく国民はこんなものを配給制で渡されてやっていけるなと、俺は呆れたが、傍らのレーヴェを見ると肩を震わせている。
「所詮は下等共産国家カゾルミア!カロリーカプセルの技術は我が国の方が上である。我が国では1カプセルあたり108kcalを摂取できるのだ!」
技術を誇る部分はそこなのか、と俺は思ったが、そもそも96と108では大差ないだろう。

続いて国民B等食。これは戦争や農業で貢献がある国民に配給されるそうだ。内容は先程のカロリーカプセルにエナジーバーとソイミートがつく。エナジーバーの摂取カロリーは左程ではないものの、満腹感が得られ、人工甘味料が使ってあるのでやや甘く、国民には好評であるらしい。ソイミートは大豆から作った合成肉だそうだ。
「やはり!パンも作れぬような共産主義の第五列が……。こんなもので民草を誤魔化す!我が国では黒パンも製造できるし、肉だって合成品の割合は5割にも満たない」
5割近くも合成肉だったのかあの国は……。それはそれですごい技術なんだがとは思ったが、あの硬くて酸っぱい黒パンはなんとかならなかったかと、アルストツカに派遣されていた時期を思い出す。

最後は国民A等食。国家に多大な貢献をしたと認定された者だけに配給される、国民垂涎の配給食であるらしい。白パンにソイレフルコーンミート、ポリッシュサラダがつく。ここでは合成品ではないというただのコッペパンにそんなに価値があるのだろうか。あとはさっきの大豆肉の塩漬け品と得体の知れない野菜のようなもの。
が、ここでレーヴェは激昂してしまう!
「莫迦な!?白パンだと?カゾルミアに製パン技術など!?有り得ない!莫迦な莫迦な莫迦な!!」
そんなに?そんなにすごいものなの?このコッペパン。レーヴェはテレビ画面のコッペパンを齧って真偽を確かめんとするばかりに凝視する。
「まさか本物の白パンだと?そんなことが?カゾルミアのような非文明国で?」
なにやら受け入れがたいものを提示されている様子だが、宥める気で「サラダがつくのはまあいくらかマシなんじゃないかな」と、他のメニューについて訊いてみるとこんな返答を寄越すのだ。
「ポリッシュ、つまりあれはポリエチレンだ。あの蛮人どもはポリエチレンをサラダだと思って食べているのだ」
これには俺も驚いた。成程、ポリッシュはポリエチレンを指しているのか。アルストツカの外来語は英語由来の変化形が多いが、カゾルミアでもそれは同じらしい。そういえば不思議とアルストツカでも生野菜は提供されなかった。いや流石に煮込んだ不味い野菜ぐらいは出たが、まさかカゾルミアでは野菜すらとれないのか?
「それにソレイフルミート――」
何かおかしな要素があるものなのだろうか?これはコーンドソイミートだろう?
「違う!これは英語の変化形ではない!こんな下劣なものを奴らは……ソイレフルというのは……」
それ以上は何を訊いてもレーヴェは答えてくれないのだった。


あとは何を話しかけても、みゃあみゃあ鳴くだけ――。
アルストツカのレーヴェは都合が悪くなるといつも白猫になってしまうのだ。
Posted 18 September, 2021. Last edited 18 September, 2021.
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31.0 hrs on record (8.9 hrs at review time)
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Posted 25 July, 2020. Last edited 25 July, 2020.
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26.4 hrs on record (25.4 hrs at review time)
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Posted 24 July, 2020. Last edited 24 July, 2020.
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46.7 hrs on record
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Posted 12 October, 2018. Last edited 12 October, 2018.
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138.8 hrs on record
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Posted 8 July, 2018. Last edited 8 July, 2018.
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7.6 hrs on record
アメリカの合衆国運輸省は、開拓民を最初に西部に送り込んだとき、
未舗装状態では駅馬車で安全に人員と貨物を運ぶことができないのを発見した。
これではピースメイカーを持って行っても役に立たない!
合衆国運輸省の地層学者たちはこの問題に立ち向かうべく、100年の歳月と1200億ドルの
開発費をかけて研究を重ねた。
その結果ついに、無重力でも上下逆にしても水の中でも氷点下でも摂氏300度でも、
どんな状況下でもどんなに未舗装路でも走れるトラックを開発した!!

一方、ソ連は泥濘を走った。
Posted 3 March, 2018. Last edited 3 March, 2018.
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18.8 hrs on record
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Posted 22 July, 2017. Last edited 13 August, 2017.
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6.4 hrs on record
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Posted 27 June, 2017. Last edited 28 June, 2017.
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12.6 hrs on record (11.9 hrs at review time)
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Posted 26 March, 2017. Last edited 26 March, 2017.
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